信じられない…。
外からあの男が伸びてきている。
来るとは思ってなかった、あの男が。
工正信。特別の2着は2回あるが、その後に競輪を始めた私に
は、そんな印象は、ない。
競輪を始めた少し後に読んだ漫画の『ギャンブルレーサー』で、「しかし、工も弱くなったなぁ」「ああ、落車ばかりで、体を壊したからなぁ・・・」と話をす
る客の会話で、「昔は強かったのだなぁ…」と。
とにかく「昔の選手」という印象は常に持っていた。「その割にしぶといなぁ・・・」。ただそれだけ。
その工正信が今期から久しぶりにA級に陥落。おそらく2層制 になってからは初めてでは。
2004年7月5日。私は熊本競輪場にいた。
まだ、7月に入ったばかりだというのに、35度を超える気温。
スタンドの冷房が効いた屋内に、レースの時以外はいないと干上がってしまう。
8RA級決勝。
工正信は特選3着、準決勝1着と、悪くない戦績で決勝進出。
決勝も工のラインの先手はほぼ間違いない。
ただし…、決勝は四国の3番手である。
■ 第8レース(A級決勝)
2000m(4
周)先頭固定競走
発走予定
14:35 電投締切 14:30
枠
番車
番選
手名
(ホームバンク)年
齢府
県期
別級
班
(前/現)脚
質ギ
ア
倍
数失
格
点直近10場
所の成績
過去の成績
競走
得点1
着2
着3
着着
外勝率
2連
対率3連
対率決り手
バ
ッ
ク
逃
捲
差
マ
1
1
工 正
信
(広
島)40
広島
55
S2/A1
追
3.57
0.0
84.00
1
0
1
0
50.0
50.0
100.0
0
0
1
0
0
防F1
予7, 般2, 抜5
今回
初3, 準1
2
2
滝川
秀嗣
(名
古屋)31
愛知
71
S2/A1
逃
3.62
0.0
76.00
0
1
0
1
0.0
50.0
50.0
0
0
1
0
1
防F1
予8, 般6, 般4
今回
初7, 準2
3
3
山中
猛
(泡
瀬)30
沖縄
78
A1/A1
両
3.57
0.0
91.00
7
8
0
13
25.0
53.5
53.5
0
11
3
1
0
岸F
初9, C2, 順8
今回
初4, 準2
4
4
若原
英伸
32
岐阜
68
A1/A1
追
3.62
0.0
88.15
6
6
2
14
21.4
42.8
50.0
0
0
7
5
0
垣F2
抜1, 準2, 決9
今回
初1, 準2
5
相原
浩二
(松
山)37
愛媛
60
S2/A1
追
3.57
0.0
78.00
1
0
0
1
50.0
50.0
50.0
0
0
1
0
0
千F1
予9, 般6, 般4
今回
初6, 準1
5
6
三宅
弘一
33
大阪
70
A1/A2
追
3.57
0.0
83.95
5
7
4
11
18.5
44.4
59.2
0
0
10
2
0
垣F2
抜6, 選3, 選1
今回
抜2, 準3
7
南部
祐二
(久
留米)33
福岡
68
A1/A1
追
3.60
0.0
87.92
4
5
4
15
14.2
32.1
46.4
0
4
4
1
1
久F2
初2, 準6, 秀1
今回
初2, 準1
6
8
中西
龍太郎
(泡
瀬)39
沖縄
56
S2/A2
追
3.64
0.0
76.00
0
0
1
1
0.0
0.0
50.0
0
0
0
0
0
松F1
予3, 準9, 般8
今回
抜5, 準3
9
藤原
浩
(高
知)24
高知
87
A1/A1
逃
3.57
0.0
90.00
8
5
3
12
28.5
46.4
57.1
2
10
1
0
9
小F2
初1, 準1, 決8
今回
初8, 準3
誘導
米原 大輔
24
熊本
86
A1
オッズを見る。1番人気は1−5で5倍前後。裏の5−1なら
8倍弱。そして工が飛んだ5−9なら25倍付く。裏の9−5なら40倍。あまりにも工に偏りすぎる。
この競輪場は直線の長さから、「3番手からも届く」とは言われているが、実際は結構逃げと番手の決着が多い。前の相原だって、S級ではかなり上の方で頑
張った事もある力ある選手。そして自在に構える滝川もかなりの曲者である。自力選手ならともかく工は位置が重要になる追い込み。
「交わしの交わしまではない!」
逆に工が飛べば大きな回収のチャンスである。工を外して車券 を購入した。
レースは最終ホーム。藤原が確かに先行。相原−工まで連れ
る。後方で動きがないまま最後の直線。
「これだったら相原の頭やわ」。
余裕を持って抜け出す相原。
その外から剛速球のように、1人の男が伸びてきた。
「ぎょえー、工だ!!」
1人違ったスピードで、相原を4分の3車置き去りにして、そ の男は優勝のゴールをゲットした。
|
「ぎょえー、神様仏様工様〜これから逆らえませんわ〜」隣にいた知
人が叫ぶ。
この男に夏と私の心は、ホンの数分だが、独占された。
これから工正信で一番思い出すレースは、このレースになるだろう。
工の名前を見るとすぐに、この以上に暑かった熊本のレースを思い出すに違いない。